この記事では、レジデンシーマッチングのApplicationにおける最重要書類である自己推薦文 (PS:Personal Statement)について記載します。結局、自分もどのようにPSをより良いものにしていくのか、悩み続けて最後まで答えを見つけることはできなかったのですが、どのように自分がPS作成に取り組んだのかをシェアしたいと思います。自分が考えたことや経験したことが、PS作成に悩む先生方の役に立てば幸いです。
良いPersonal statementとは?
Personal statement(PS)は間違いなくApplicationの最重要書類です。にも関わらず、自分の知る限り、どのように書くべきかについて確固たる指針となるような教科書や記事はありません。ネットで検索しても色々な記事が出てくると思いますが、それぞれ強調している点や考え方は異なります。自分は色々な記事を見た上で、最終的には下記のコロラド大学で小児科研修をされた紙谷先生の記事を最も参考にしました。以下紙谷先生のブログからの抜粋です。
自分のメンターなどから指導をうけてたどり着いたコツは、プログラムが知りたいと思うことは、1. 今まで何を目指し、何をしてきたか 2. 今後、何をしたいかの2点のみということです。プログラム側は、PS内での一般的な意見や抽象論を嫌います。極端なたとえとして、私は、子どもが大好きで、子どもは将来の希望であり、だから小児科をやりたいのです、と述べることはいやがられます。それは、彼らが子どもがきらいというわけではなく、小児科になりたい者は、子どもが好きなのは当たり前だと思っているからです。それを何行もつかって一般論を語られるとたまらなくなるのです。そうではなく、僕のメンターの一人は、具体的な経験談をいれなさいといいます、子どもが好きなのはわかっている、ではなぜ好きなのか、具体的な経験をもとにPSに書きなさいといいます。
https://japanvaccinesafety.com/2017/08/27/personal-statementについて/
なので、これまで自分は何をしてきたか、卒後時間が経って改めて米国でレジデントとしてトレーニングを積みたい理由は何なのか、学んだことを踏まえて将来何をしたいのかが、具体的なエピソードを含めつつも簡潔にかつ明瞭に伝わることを心がけました。当初は2019年にアプライしようと思っていたので、2020年夏の時点である程度の質のPSは出来上がっており、野口医学研究所のエクスターンシップやNプログラムのアプリケーションにはそれを用いました。しかしながら、実際のアプライに際して、より自分の思い(教育+研究の力で日本における家庭医療のプレゼンスを高める)を強調する必要があると考え、書類のデッドラインの2ヶ月前くらいからPSを大幅修正しました。自分にはこれまでの経歴の中でたいして自慢できることはないのですが、US Naval Hospitalで英語への暴露がしっかりとあること、学生時代にラグビー部のキャプテンをしていたことについては内容に盛り込むこととしました。
100%の真実ではなくても仕方ない
こうして、2020年の8月に修正版を完成させたのですが、その後変更に変更を重ねて苦しみました。結論からいくと合計4回英文校正サービスに提出し(合計8万円程度かかっています)、その上でメンターの先生方にもお願いして、修正して頂くことを繰り返しました。
このように苦戦した一番の理由に、「自分には絶対に渡米しないといけない理由がない」ということがありました。20年前ならまだしも、現在は日本でもある程度の質の家庭医療の研修を受けることができます。また、教育や研究についても国内の大学院を卒業され、トップジャーナルにアクセプトされている先生がいます。日本において教育+研究の力で、質の高いプライマリケアを社会に広めたいと考えた時、突き詰めて考えると絶対にアメリカに行かないといけない理由はないです。これは家庭医療に限ったことではないと思います。一部の領域を除けば、本当に本当に突き詰めて考えれば、絶対に渡米しないと学べない分野なんてないし、コロナ禍やアジア人差別のニュースが世間を賑わす中、渡米に関するリスクも少なくありません。じゃあなぜ、それでも渡米を目指して尋常ではない努力を継続できたのかというと、自分の場合は人種や価値観が非常に多様であるアメリカで家庭医として働いてみたい!という好奇心が一番の原動力でした。とても、PSに書ける内容ではありませんが、それが真実なので仕方ありません。渡米を目指す理由についてはまた後日別記事にしますが、実際に渡米された先生方や同僚も同じようなことを言っている人が多いです。
すなわち、PSに記載するロジックは100%の本心ではなく(もちろん80%程度は本心なのですが)、頑張って整合性をつけるために作り上げた・練り上げたロジックが混じってしまうのです。なので、少しCritiqueされてしまうと、やっぱりここは変えようかな、これはこの方がいいかな、と揺らいでしまうし、ブレてしまうのです。しかしながら、自分と向き合って、正しい答えは分からないけど、今の自分にとってベストと思われるロジックを形成し、それをフォーマルで洗練された英語で表現するように努力を続けるしかないんです。この作業は非常に辛いものでしたが、やり続けるしかありません。
プログラムに特化したPSを準備する
自分は第一志望のプログラムについては、個別のPSを用意しました。これは過去に渡米された先生方のアドバイスもありますが、プログラムとしても明らかに自分のプログラムのために用意されたPSと分かれば印象は良いだろうと考えたからです。自分の場合は実際にそのプログラムを見学していたので、その時に自分が感じたことなどをPSに盛り込むことができました。理想を言えばなるべく多くのプログラムについてそのプログラムに特化したPSを用意できればいいのですが、実際の見学経験などがない限りは、なかなか魅力ある文章を絞り出すことが難しいと思うのと、後述する英文校正の必要性のため、現実的には多くても3-4パターンが限界なのでは?と思います。
Written Englishと英文校正について
PSの中に記載されている英語は、必ず教養のある単語選択や文章表現でスペルミスなく記載されている必要があります。自分の場合も、複数人のNativeの英語講師から面接練習している中で気づいたのですが、教養のあるアメリカ人でも意外とSpoken Englishについては評価が緩いです。時制や前置詞、単数・複数などを多少間違えたとしても、ほとんど気にならないと言っていました。しかしながら、文章については、スペルミスや単数・複数のミス、単語の選択などがかなりきになるようで非常に厳しいチェックを受けました。Spoken Englishと異なり、Written Englishについては、一つ一つにこだわりを持ち、絶対にミスをしないように仕上げる必要性を感じました。
なので、自分で少し単語や言い回しを変えただけでも、絶対に最後はNative checkが欲しい、それも信頼できるNativeのチェックが欲しいと思いました。自分の場合は、何度も何度も英語を添削してくれる教養のあるNativeの友人が近くにいなかったので、英文校正サイトをフルに活用することになりました。また、このように頻回の英文校正を必要とする状況で、Draftが2つあるということは非常に辛いことでした。複数のPSを用意した場合は、この作業も倍になるので、非常に労力がかかると言うことはあらかじめ認識しておくべきと思いました。
ERASへの登録と文字数
当初、自分が作成し、普段使いしていたPSの単語数は合計で750 wordsでした。これは、様々はオンラインの記事(特に米国の医学部のHow to write PSのような医学生向けの記事)を参考にしたものでした。しかしながら、いざ自分が登録してみるとERASのページでは1ページに治まらないことに気づきました。
2年前にアプライした同僚のPSを見ると、その時は750Words程度でもしっかりと1ページに収まっていたので、2020年度からオンラインの様式にマイナーチェンジがあったものと思われます。少しずつ文章を削りながら、どれくらいの文字数であれば1ページに収まるのか試したところ、最終的に600Words程度に収めないと、1ページに収まらないということが分かりました。この点も非常に悩んだのですが、当初は詰め込みたい情報が多かったのであえて2ページにわたるPSで勝負しようと考えました。卒後8年目でのレジデンシー挑戦なので、経緯を説明する必要があり、書きたいことをどんなに簡素にまとめても、650文字は超えてしまう状況だったからです。しかし、その後同僚やPSをチェックしていただいた米国で実際にFacultyとして働く先生に「1枚に収まるのがベスト」というコメントをいただいたことを受けて、文字数を削ることを決めました。最終的には大幅に内容を削り、580words程度で収めました。この過程でもどの部分を削除し、どの部分を残すかで非常葛藤しました。出来上がったPSで、自分が当初入れていたお気に入りの表現が消えてしまったこともあり、本当にこれで良かったのだろうか、と不安な気持ちに苛まれました。
意見を聞きすぎるのは?
また、色々な人に自分のPSを見せて意見をもらうと、良い評価から悪い評価まで様々な評価をもらうことになります。添削サービスのNativeの先生、アメリカで家庭医として働く先生、実際の面接官などから、自分のPSに対して実に様々なフィードバックをもらったのですが、やはり評価はバラバラで非常に困惑しました。時には全く真逆のような評価をいただくこともあり、どうしたらいいのか分からなくなってしまうこともしばしばでした。これは初めにも書いた通り、何が良いPSなのか、という点が必ずしもはっきりしていないからなのだと思います。不安になればなるほど、色々な先生の意見を聞きたくなるのですが、最終的には、ある程度相談する人を絞って、内容を深めていく方が良いのかもしれません。
以上、自分のPSについての考えをまとめました。自分の経験が少しでも参考になれば幸いです。