日本から来たことは言わない?

投稿日:

2年目として初めてのInpatient serviceでの勤務が終わりました。責任も仕事量も大きく増し、初めてシニアレジデンととして後輩であるインターンと過ごす4週間でした。ローテーション次第なのですが、Inpatient serviceの勤務は本当に毎日忙しくて、朝早くから夜遅くまで働いていて、結局日本にいた時と比べて勤務時間はほとんど変わりません。妻や子供には寂しい思いをさせていて申し訳なく思う日々です。

さて、本日は自分の苦い経験から考えたことについてお話ししたいと思います。特に渡米の1年目はどうしても英語力が足らないし、会話についていけなくなることも多いと思うのですが、自分の場合はCriticalなミスをしないことが大切だと思い、初めは『日本から来たばかりで英語で理解できないこともあるので、頻回にダブルチェックさせて欲しい』ということを出会う全ての人に伝えていました。しかしながら、2021年9月にChildren inpatientのローテーションで研修中断となってしまったことをきっかけに、少し考え方が変わりました。

研修中断を経験した時には、米国での研修は非常に厳しいものだと感じました。決してアンプロフェッショナルなことをした訳ではないのに、研修2-3日目に自分の能力(英語力+臨床知識)について極めて厳しいCritiqueをもらい、これ以上は研修継続不可能と指導医から引導を渡されました。自分のプログラムでは、もし研修で何かトラブルがあった場合には、Probation programといって、その人のために合わせた研修が用意され、その基準に満たさない場合はそれが解雇の理由になります。自分は結局Probation programの対象にはなりませんでしたが、自分のプログラムのアドバイザーからはその可能性も示唆され、非常に強いショックを受けました。

自分の経験上、ひどい批判をもらう時には一定の法則があります。大体働き始めてから2-3日です。指導医は日本から来たことを知っていて、『こいつはだから英語が下手なんだ』というバイアスを持っています。そして、これまで全てのひどいCritiqueは自分のプログラムではない、対外試合のローテーションで、家庭医ではなく、内科医や小児科医からのものです。多くの辛い経験を活かして、自分が自分を少しでもよく見せるために、気をつけていた(今でも気をつけている)ことがあります。

①日本から来たことは言わない。

自分は信頼関係を築けていない人に、自分が日本から来たことを話すのはリスクになると考えています。米国人は日本人は英語が下手なことは大体知っています。研修のために日本から来たということがバレると、『こいつは英語が下手だなーとか、日本人訛りの英語で聞きづらいなー』というバイアスを持って見られることで低い評価につながる可能性があることを経験しています。正直、訛った英語を話す人などいっぱいいて、特にインド人なんかも日本人と同様にかなり聞き取りづらい英語を話す人はいるのですが、その人がある程度の期間米国にいて、それなりにファンクションしているということを指導医が知っていれば、例え少し聞きづらい英語を話したとしても、許容してくれると思うのです。しかし、指導医が『この日本人研修医は、つい最近レジデンシーのために米国に来て、現在英語の壁に苦しんでいる』みたいな情報を知ったらどう思うでしょうか?指導医だって人間です。忙しく不可のかかる臨床の中では、『こんな英語も拙いやつが奴が忙しい現場に来やがって』と怒りに近い感情を抱いても不思議ではないのではないでしょうか?もちろん、自分の信頼する人(自分が所属するプログラムの指導医や仲間)には、自分が日本から米国にレジデンシーに来ていてどういうことを学びたいのか、明確に伝える必要があるのですが、プログラム外のローテーションで、あえて自分が最近日本から来たと言って隙を見せる必要はないと思うのです。

②関係ないことは聞き直さない

自分は米国に来てから1年以上経ちますが、今でも自分は英語でのコミュニケーションの向上のために時間を割かないといけない状況です。コンテクストをあまり知らない状況では、会話の内容を完全に聞き取れないこともまだまだあります。しかし、質問することで、聞き取れなかったということを暴露することは得策ではないと思います。聞き取れなかった会話が、患者のケアに大きくは関係しないと思うのであれば、容易に聞き直すべきではないです。会話が完全に聞き取れなくても、みんなが今大切な話をしているのか、あまり患者ケアの方針決定に関係ない話をしているのかは感じ取れることが多いです。もし自分が聞き取れなかった会話が、患者ケアにおいて重要でないと思うのであれば、一旦は堪えておいて、後で同じ学年の同僚や自分と同じ立場にある同僚にこっそりと聞くべきです。逆に患者のケアに大きく関係することや、メディカルな内容については、意味が汲み取れなかった場合には、必ず指導医やシニアレジデントに、早急に聞き直す必要があるのですが、この場合も聞き方を工夫すれば、あまり英語が聞けなかったことを相手に悟られずに、聞き直せることが多いです。指導医も英語が聞けなかったのではなく、医学知識の確認と勘違いしてくれるからです。

③英語の質問は信頼できる人にする。

上でも少し述べたのですが、誰には隙を見せてよくて、誰には隙を見せるべきでないかは強く意識する必要があると思います。Children HospitalでのInpatientでの研修は、自分たち家庭医レジデントはVisiting residentと呼ばれ、完全なアウェーでの研修、対外試合みたいな感覚でした。直接守ってくれる家庭医療の指導医も現場にはいません。毎週働く指導医とシニアレジデントが変わるので、その都度、初対面の指導医やシニアレジデントと信頼を築かなければなりません。この時に考えて欲しいのが、Awayでお世話になる指導医は、基本的に外から来た家庭医療レジデントについてはそこまで考えていない、ということです。なぜなら自分のプログラムのレジデントではないからです。自分たちで育ててあげようとか、弱点をなんとか克服させてあげよう、みたいな気持ちはないはずです。レジデンシーの3年間を見据えたアドバイスをもらえることもないはずです。なぜなら、それは所属するプログラムの責任だからです。自分はそのことに文句を言いたいわけではありません。むしろ、当然のことだと納得しています。ただ、厳しい評価システムの存在する米国で仕事をするのであれば、誰には心を許して弱みを見せていいのか、誰にはそうすべきでないのかを意識すべきだと思うのです。自分の場合は同じプログラムの同期には全てを隠さずに相談しています。彼らのことを、とても信頼しているし、仮にしょうもない質問をしても、優しく答えてくれて、それが自分の低い評価につながることがないことを知っているからです。

以上、少しひねくれた考え方かもしれないのですが、Surviveするためにはこのような考え方に触れる機会があってもいいと思うのです。繰り返しますが、臨床の現場はぬるくありません。低い評価が重なり、研修がTerminationになった日本人レジデントは実際に数多くいます。厳しい世界でどのように生き残っていくのか、自分なりに毎日一生懸命考えています。

-臨床留学

Copyright© 自分のあたまで考える , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.