インターンとして教育について思うこと・・・

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大変だったICUのローテーションも最終日を迎えました。最終日は28時間勤務で、土曜日の朝から日曜日の昼までの勤務となっています。現在は19時、ちょうど日勤が終わり、連続での夜勤が開始となった時間帯です。これも米国に特徴的なのかもしれないのですが、一緒に働くメンバーがコロコロ変わります。自分の場合はちょうど、クリスマス休暇の前、クリスマス休暇中、新年休暇中、新年休暇明けと働き続けたので、その都度働くメンバーが丸ごと変わりました。数えてみるとこの4週間、呼吸器/集中治療の指導医4人とフェロー3人、内科のシニアレジデント5人と一緒に働いていて、合計12人の医師から何らかの教育や指導を受けたことになります。それぞれの医師が異なるExpectationを持っているし、全くスタイルが違うので空気を読みながら、自分に与えられた役割を果たすのは非常に大変でした。

これだけ異なる多くのスタッフから教育を受ける機会があると、それぞれのスタイルを比較しながら、自分がシニアレジデントになった時にどんなことを意識して、インターンと関わっていくべきなのか考えたりします。自分の最終的な結論としては、なんか当たり前のことなのですが、学習者の話をしっかりと聞くこと、学習者に責任感を持たせるために安全に経験できる環境を整えるが非常に重要なのではないかと感じています。

まずは学習者の話を聞くこと

これが一番大事であり、そして一番難しいことであると個人的には感じています。いわゆる5 micro skillsのGet a commitmentというやつです。これは、ICUのローテーションだけではないのですが、プレゼンテーションの最中に話が詰まるとすぐシニアレジデントにその後のプレゼンテーションを奪われてしまうことはよくあります。また、先日もまだプレゼンテーションの途中なのにフェローに話を遮られて、自分がまだ話していないプロブレムまで全部喋られて、『他のプロブレムは何だ』とか言われるので、思わず『自分が全て言ったじゃねぇか!』とよく心の中で叫んでしまいました。笑 過去に米国で研修した家庭医の先輩のブログ(https://blog.goo.ne.jp/familymed758/e/a568ac15558a6d99c25bff35aa7fdb63)でも "相手によっては、わずかのpauseすらも許容されず、そこで打ち切りにされてしまいます" "とにかくこちらの結論に達する前に、相手に質問されら負けです" "しゃべり続けて途中で指導医に口を挟ませない"ことが大事と書いてありますが、気持ちは非常によくわかります。

何が言いたいかというと、まずは話を聞くという当たり前のことですが、これは意識をしない限り非常に実践が難しく、しっかりと話を聞ける人は非常に少ないということです。これまでの感覚だとしっかりと話を聞いてくれるシニアレジデントは5人に1人くらい、フェローや指導医は多くの人がしっかりと話を聞いてくれますが、それでも2-3人に1人くらいの感覚です。自分が日本で初期研修をしていた時にどうだったかは正直もうはっきり覚えていないのですが、やはり日本と比べても米国はプレゼンテーションをする回数が異常に多いので、余計にこういったことを感じるのかもしれません。本当に自分の拙いプレゼンテーションを最後まで聞いてくれた時には、別に指導医は自分に何かを教えてくれた訳ではありませんが、それだけで『自分を一旦は受け止めてくれた』という指導医の包容力みたいなものを感じます。

"能動的に患者を診る"体験をさせる

この話の前提としてチームとしてのインターンの位置付けを説明します。基本的には病棟での業務はインターン(1年目のレジデント)、2-3年目のシニアレジデント、指導医(フェローは指導医のように働くことが多いです)で構成されたチームによって成り立っています。インターンは割り当てられる人数が少ないのですが、とにかく自分の患者を担当医としてしっかりと診療することが求められます。シニアレジデントは複数のインターンの監督をしながら(あるいは自分の担当患者の診療も平行しながら)、自分で判断できる範囲を超える場合には、適切に指導医とコミュニケーションをとって、診療をする必要があります。このように指導医、シニアレジデント、インターンというピラミッド構造があるのですが、インターンがこのピラミッドの一番下に位置するわけです。チームの構造や科によって異なることもあると思うのですが、基本的には患者の身体診察や、薬や検査のオーダーを入力するのはインターンの仕事です。看護師や他の職種も何か質問があった時にいきなり指導医に相談することはなくて、基本的にはインターンやレジデントに相談し、自分たちで判断できない時には指導医の意見を仰ぐことになります。

インターンの日常は忙しいです。患者のカルテを記載したり、コンサルテーションの内容に質問があったら確認のため各部署に電話をかけてタライ回しにされたり、患者家族にその日の診療状況をアップデートしたり、ナースからの質問や電話対応もまずはインターンが受けて要件を確認します。このようなことをしながら、どうしても雑用をしている、という感覚に陥ってしまうことはあります。要するにただ単に作業をしていて、医師でなくてもできることをしているのではないか、と感じてしまうのです。そうなると途端にモチベーションが下がり、やる気がなくなります。雑用的な仕事を多くこなさないといけないのは、インターンとしては仕方のないことなのですが、指導医やシニアレジデントのちょっとして心がけや気遣いで、インターンがどのように感じるかは大きく変わると思うのです。

インターンがモチベーションを保ちながら働き続けるために、自分が大事だと思うのは、患者マネジメントに能動的に関わる経験です。つまり、自分でその病態を評価し、どのように対応するのかというプランを立案することです。この能動的な経験はインターンに、その患者への診療に対する責任感を与え、その責任が医師としてのやりがいや日々の仕事へのモチベーションにつながると思うのです。例えば上級医から、『循環器内科にコンサルテーションを入れておいて』と指示だけされたとします。これは単なる作業なので、ただ単に下働きさせられているように感じます。例外はあるとは思うのですが、医師として働いている限りは、患者のケアに貢献したいと思うし、そのために頑張ろうと思えるのではないでしょうか?でも、ただ単に『コンサルトしといて』と言われただけで、自分がその患者のケアに貢献しているように思えるでしょうか?ところが一手目かけて、指導医が『この患者の心不全の超音波の結果みた?』『どう思う?』『新たに収縮不全が見つかっているけどこの場合はどのようなことを考えるんだっけ?』などと自分で循環器内科へのコンサルトが必要であるという結論に達するまでのプロセスを共有した後で『循環器内科にコンサルトしよう』と言われるとどうでしょうか?自分がその患者の診療に関わっている感覚、患者のために少しオーダーを立てよう、多少面倒くさいコミュニケーションがあっても、しっかりと頑張ろうと思えるのではないでしょうか?なので、指導医やシニアレジデントはインターンに、必要十分な質問や議論を通して、しっかりと考えさせて、何なら自分の思考プロセスを追体験させることで、インターンが自分の頭で判断させる経験をさせる必要があると思うのです。

これは自分が将来マネしたいと思っているのですが、あるフェローが回診中に『プレゼンテーションの時は、必ず自分の意見を言いなさい』と言っていて、自分にとってはとてもしっくりきました。こちらではよく方針を決める時に、レジデントが指導医に "Do you want to give him another lasix?"みたいな聞き方をすることが多いのですが、そのフェローは間違っていたら自分が訂正するからしっかり担当医として"I want to give him another lasix."のように自分を主語にしてプランを述べなさいと言っていて、これはまさにレジデントの能動性を促す関わり方だと思いました。

臨床教育で避けるべきこと

まず代表的な誤りとして、自分で全てやってしまう、ということがあげられると思います。例えば、指導医がどんどん検査をオーダーしてしまうことで、実際に現場で実働舞台を担うレジデントが何が起こっているのか、よく分からなくなってしまう、などです。看護師から薬剤や検査の指示について質問されても、自分がそのことを全く知らされていないこともあり、その場合には『いや自分は知りません』と思わず言いたくなります。これは患者診療に対する責任感を失う経験になります。この4週間を振り返っても、一緒に働いていて心地よく感じる指導医は、家族と面談したり、各科の指導医同士で話しあった際には必ず、レジデントの部屋によってレジデントにも最新の情報をアップデートしてくれました。また、レジデント間のコミュニケーションも非常に重要です。特にシニアレジデントとインターンはチームとして非常に密に働くので、ここの関係は非常に重要なのですが、自分はどうしても最後までうまく関係が築けないシニアレジデントが1人いました。そのシニアレジデントは優秀なのですが、全て自分で完結してしまい、インターンにまで情報が降りてこないのです。シニアレジデントが自分で考えたことをどんどん自分でオーダーしてしまい、インターンにその検査をオーダーしたことや、なぜその検査が必要なのか、などと言った点を全く教えてくれないのです。途中まではカルテの情報を拾い必死に食いつこうとはしましたが、最後の方は疲れてしまい、キャッチアップを諦めてしまいました。繰り返しですが、このような状況に生じると最末端のインターンとしては、ただ単に自分は患者の診療録を書かされている肉体労働者ではないかと非常に強い徒労感を覚えたり、自分がいなくても患者のケアは全く変わらないのではないかという無力感を感じたりするのです。全くリスペクトされていないように感じるのです。なので、教育者はこのような状況は絶対に避けるべきだと思います。なので、指導医やシニアレジデントは自分たちで何でもやってしまうのではなく、学習者を尊重し、一緒に必要な検査を考えたり、オーダーするというプロセスを踏むべきだと思います。(もちろん、非常に専門科の特性の強い領域や緊急性の高い病態の場合は例外です。もちろん、最終的には責任は指導医にあるし、監督も必要とするでしょう。最終的には漏れているオーダーがないか、ざっと全体を見渡す必要があるだろうし、必要に応じてそういった足りない部分をカバーしないといけない部分はあるので、結局は指導医の手の上で踊っているだけかもしれません。でも本当にできる指導医はそういった認識を学習者に与えないような気がします。自分が全て管理していても、学習者にそうは感じさせないのです。常に目の前にいるわけではないけど、必ず影でそっと見守ってくれて、何かあったらいつでも助けに来てくれるのです。患者のケアに対する責任感を持つことと、そういう能動的に患者を見ている感覚というのが、学習者のモチベーションに非常に重要なのではないかと思うのです。

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