ERローテーションが終わりました。

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本来はマッチングのことだけではなく、こちらでの研修のことについても記載したいと思っていたのですが、なかなか時間が取れずに筆が進みませんでした。ちょっとずつですが、環境に慣れつつあるので、今後はこちらでの研修のことについても少しずつ記載していきたいと思います。8月は救急外来で研修していました。初めての家庭医療科以外のローテーションでしたが、なんとかサバイブすることができました。時間により異なるのですが、比較的賑やかな救急外来で、ベッド数は50床程度はあるのですが、それでも午後をすぎると廊下に患者が溢れていることも多かったです。忙しい日々であっという間に時が流れました。

救急外来での1日・・・

基本的にはどの患者にも必ず指導医が1人アサインされるのですが、そこにPhysician Assistant(PA)や救急科のレジデント、家庭医療科のレジデント、医学生などがアシスタントフィジシャンのような形でアサインされて、自分がアサインした患者については自分がメインで見つつ、指導医にコンサルトをしながら患者を診るという流れでした。そして、これは日本での研修と全く一緒なのですが、あまり優しいオリエンテーションはありません。ERの初日は、全くERのシステムを把握していない中、指導医に『この患者診たらー』と言われて患者を診にいったところ、実は紹介元の診療所で既にCOVID19陽性と診断されている患者で、部屋にマスク1本で入室しそうになったところを看護師に止められるところからスタートしました。でもこれがアメリカで暮らし、研修するということです。右も左も分からない所で、それでも人に聞きながら、自分に期待されていることを見極め、それを責任感を持って全力で取り組む必要があります。

1日9-10時間のシフトですが、ある程度患者のことを把握しようと思うと常時2人抱えるのが限界で、自分は1日で4-5人診るので精一杯でした。救急の2年目以降のレジデントなどは10人程度は見ていてさすがだと思いました。結構な高確率で受け持ち患者が入院になるのですが、いざ入院となると入院を担当する医師に電話で患者のIDや病状、入院の理由を説明しないといけません。これが本当に苦痛でした。クリニックでの外来研修や家庭医療科の病棟研修では、もちろんプレゼンテーションの機会は多くありますが、基本的には身内である家庭医療科の指導医や、ナイトチームの同僚に行うため、上手く言えず途中で止まってしまったりしてもなんとかなる部分がありました。しかし、救急外来での他科のコンサルトではそうはいきません。実際に拙い英語で懸命にコンサルトしている途中で電話を切られてしまったり、指導医に代わってくれ、と言われることもあり、悔しい思いもたくさんしました。

頻用薬の使い方!

それでも、早めに救急外来を回れて良かったと思う点は、鎮痛薬、制吐薬、抗アレルギー薬など急性期の対応によく使う薬剤のオーダーに慣れることができた点です。基本的には似たような薬を使うのですが、日本で親しんだ薬がそのまま使えることはほとんどありません。微妙に違う種類だったり、ブランド名が全く違ったりします。また、名前も同じだったとしても発音やイントネーションで全く通じないことも多々ありました。頻用薬のオーダーがある程度自分でできるようになっただけでも大分居心地の悪さは改善しました。鎮痛薬はでは静注薬として、Toradol(NSAIDs、日本でいうロピオンのような存在でしょうか)、Hydromorphone(オピオイド)、内服ではTylenol(アセトアミノフェン)とIbuprofen(NSAIDs)の他にMeroxicam(これもNSAIDsです)を知っていれば大抵の場合なんとかなります。オピオイドを外来でいとも簡単に使ってしまうことに初めは驚きましたが、すぐに慣れました。

患者のフローを知る

もう一つ救急外来で学んだことは、アメリカにおける患者の流れです。基本的には、アメリカのオフィスは当日連絡してみてもらえるということはほとんどないので、明日まで待つことが危険と思われる症例については、電話やオンラインでかかりつけ医がERの受診を指示します。これもあくまでも印象ではあるのですが、クリニックで粘る印象はなく、比較的簡単にER受診を指示する印象はあります。医療訴訟のリスクなども大きく関係しているように思います。各診療所からの紹介の場合なども、診療所の医師が病院で働く各科の医師に相談するということはなく、ほとんどの症例がERに来ます。いざ、ERでの検査が終わり、入院が必要とされれば、その患者のかかりつけ医に応じて、入院担当医が決まります。例えば、私が所属しているプログラムの診療所かかりつけの患者であれば、家庭医療科で入院を担当しますし、また地域の開業医かかりつけの場合は、その開業医が主治医になって、開業医同志でチームを作ってみたりします。また、内科の先生がかかりつけの場合は、内科チームが入院を担当します。私が所属するプログラムでは基本的に、ER医が入院が必要だと思えば、入院担当医の医師にコンサルトする前に入院のオーダーを立てることができてしまい、例外はありますが、基本的にはER医の判断が尊重されることが多く、この辺も日本で自分が研修してきた病院とは少し違う部分だと感じました。

アメリカならではのこと

自分は日本でもある程度の経験があるので、日本と比較して感じたことについて記載してみたいと思います。まず、これまで診たことがなかった症例としては、Sickle cell diseaseの患者の疼痛発作、オピオイドが欲しくて嘘をつく患者などあげられるでしょうか?Sickle cell diseaseの患者が疼痛を訴えて来院された際の鑑別と必要な検査なんて日本では考えることはないと思います。こういった患者は主治医がケアプランをある程度作成しており、どのような順序で薬を使うか、どのような時に入院を検討するか、誰が外来でフォローするか、といったことについての指示書のようなものが電子カルテに取り込まれていました。あとは、アルコール多飲で膵炎を繰り返している人もとても多いです。EthanolやUrine drug screeningをオーダーする機会は非常に多かったです。自分のキャパシティーの問題であまり、重症な症例には関わらなかったし、症例数自体も1ヶ月で約60例程度しか見ていないと思うので、もっと症例への暴露があれば、より多くのアメリカ特有のケースとの出会いがあったのかもしれません。

診療の様子という観点では、よくある主訴については、スコアリングでの対応が決まっていることが多いと思いました。Med-calcという臨床におけるスコアリングが揃っているサイトは非常によく使います。例えば、胸痛患者の取扱いについては、EKG、Trop-Iなどを調べて陰性だった場合は、基本的にはHeart Scoreによって、帰宅とするのか、それとも入院しストレステストを行うのか決めることになります。もちろんこのスコアについては、主観的な項目があるので、必ずしも客観的という訳ではないのですが、Heart Testで○点だからと言えば、入院を引き受ける医師も入院の必要性を分かってくれるので、その点は非常に楽でした。こういったスコアリングを使いながら、ふと志賀先生の『考えるER-SAMURAIプラクティス』という本を思い出しました。志賀先生は米国で救急の研修をされた先生で、その先生の著書を自分が初期研修医の時に買って読んだのですが、当時色々な愁訴に対するスコアリングの記載が多いなーと感じた記憶があります。これは米国の救急外来での文化を把握しているのかもしれません。ただ、こういうスコアリングで思うのが、その地域や病院でのコンセンサスの重要性です。みんなが『そのスコアを使って判断すればいいよね!』と思っていればいいのですが、例えばコンサルタントになる循環器の先生がそのスコアを知らなかったとすると、そのスコアを元に判断したことで、後から叱責を受けるなど、まずいことになってしまう可能性があります。特に日本は良くも悪くも専門研修の内容がバラバラなので、その病院の文化やその専門医の先生の考え方を把握して、その既定路線から外れない力が必要とされると思います。

救急外来のローテーションを終えて、次は小児科のinpatientのローテーションが開始となります。最後に小児科病棟で研修してから、既に4年ほど経過しているので、とても緊張しますが、引き続き頑張って多くのことを吸収したいと思います!

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