ヘルスメンテナンスに関するウェブアプリケーションをリリースしました。

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本日、滋賀家庭医療学センター(Shiga Center for Family Medicine: SCFM)の協力を得て、ヘルスメンテナンスに関するウェブアプリケーションをリリースしました。

https://scfm-hm.appspot.com/

このアプリケーションは簡単に言うと、患者の基礎情報(年齢、性別、喫煙歴など)を入力すると、その患者に推奨されるヘルスメンテナンスの項目が羅列されるものです。せっかくなので、このアプリケーションを作るに至った経緯を記録します。

そもそもヘルスメンテナンスとは?

ヘルスメンテナンスとは、健康を維持・増進するために医療者側が患者に対して、積極的に行う推奨・勧奨のことで、スクリーニング、カウンセリング、予防接種、予防的内服に分類されます。特に米国では家庭医がこのヘルスメンテナンスの推奨をエビデンスに基づいて患者に提供するということがとても重要視されているように感じます。そして、これは完全に私見ですが、ヘルスメンテナンスはその外来の性質を見分ける指標になるような気がしています。あなたがトレーニングしている外来でこのような話が一切出てこない(出てくる余地がない)ようなら、それはプライマリ・ケアの外来ではない可能性が高いと思います。

これは特に、総合診療外来という名前の外来によくあると思うのですが、例えば、その総合診療外来が内科愁訴の初診外来であればヘルスメンテナンスについて患者に説明したり、議論する余地はあまり多くないはずです(文脈上あまり出てこないはずです)。また、現在、自分が勤務している大学病院の総合診療科の外来では、市の助成を使った検診項目の実施や、ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンなど)はできません。もちろん、こういった外来はとてもニーズがあるし、総合内科的には良いトレーニング場所で、研修としてはとても意味のあるものだとは思います。しかし、あなたが家庭医・総合診療医として研修を受けているけど、ヘルスメンテナンスの相談ができる外来を持っていないのであれば、専攻医を卒業して独り立ちする前に、やはりどこか適切なプライマリ・ケアのフィールドで外来経験を確保する必要が生じると思うのです。

ヘルスメンテナンスに対して感じていたこと

このヘルスメンテナンスの項目ですが、実際の外来で忙しい中漏れなく埋めていこうと思うと意外と難しいことに気づきます。米国の米国予防医療専門委員会(USPSTF)が出しているアプリケーション(旧:ePSS)があるものの、実際に日本で自分が診療している環境に当てはめることが可能かというと、直接適応できない項目があったり(肥満患者に対する減量プログラムなど)、逆に日本でのみ推奨される項目(胃癌検診など)があったり、USPSTFで推奨される検診の間隔と日本での助成間隔の違いがあったり(乳癌など)するため、専攻医の時は「結局どうしたらいいの!?」と感じていました。また、実際に知識を目の前の患者に適用しようと思っても、どこでその検査ができるのか、いくらぐらいお金がかかるのか(例えば2023年までのPPSV23の助成体制など)などの知識が欠けていると結局実践に移すことができず、エビデンス-診療ギャップが生じてしまいます(エビデンス-診療ギャップについては岡田先生のアレルギー61( 11 ),1623―16302012(平24)を参照のこと)。このエビデンスパイプラインの水漏れを少しでも減らすために、ヘルスメンテナンスの各々の項目について、自分が普段診療している環境における検査のリソースや料金まで含めた情報が一覧になったものがあればとても便利だろうな、と以前から思っていました。

このアプリケーションを作ることになったきっかけ

2019年の夏頃から外勤先としてお世話になっている弓削メディカルクリニックで、ヘルスメンテナンスに関する患者向けリーフレットを作成するプロジェクトの担当となったところがこのウェブアプリケーションを作成することになったきっかけでした。その過程で、患者向けの推奨項目を考える前に、まずは医師向けにヘルスメンテナンスの各項目の情報をまとめました。しかしながら、コロナの問題もあり、リーフレットを患者に配るというスタイルは感染拡大防止の観点から難しく、他の代替案の必要性を感じていました。

その時、リサーチの勉強の一貫として勉強を開始していたプログラミングの知識が重なり、Pythonを利用してウェブアプリケーションを作ることを思い立ちました。オンラインでエンジニアのメンターを見つけて相談したところ、このようなアプリケーションの作成は可能だと言われたので、勉強と作業を開始しました。プログラミング初心者でしたが、空いた時間に勉強を進め、約4ヶ月でこのアプリケーションを作成することができました。興味がある方は別記事(プログラミング未経験の家庭医がウェブアプリケーションを作るまで)もご参照下さい。

工夫したポイント

このアプリケーションでは敢えて、滋賀家庭医療学センターが立地する滋賀県竜王町における医療リソースや助成体制といった情報を残しました。これはこのような情報が、エビデンス-診療ギャップを埋めるためにとても重要な情報であり、私たちがこのようなことも意識しながら、ヘルスメンテナンスを実践していることが伝わることで、皆様の参考になる部分があるのではないかと考えたからです。

まとめ

このアプリケーションをきっかけに、各々の診療所や地域で、ヘルスメンテナンスの知識や情報についてもう一度整理していただき、ヘルスメンテナンスの実践率の向上に役立つことがあればこれほど嬉しいことはありません。最後になりますが、この推奨項目のstatementの吟味に関わってくれたSCFMの先生方、そして、組織としての支援を決断してくれた雨森先生に心から感謝しています。

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