Preventive Visit (予防医療の受診) VS Acute Visit (急病の受診)

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1月中旬から小児病院の救急外来で働いています。ひたすら子供を見ているのですが、感染症の比率が大人の救急外来とは比較にならないほど高く、いつ感染をもらってしまうかと思いながらヒヤヒヤしています。幸い今のところ体調を崩すことなく元気にやっています。さて、本日は米国の医療でも非常に理解のされづらい、予防医療の受診と急病の受診の違いについて説明してみたいと思います。米国では、年に1回の予防医療の受診を柱として、何か急な症状があった時や定期的な経過観察が必要な場合は、適宜急病の受診を組み合わせながら診療をおこなっていく、という診療の形態となっています。以下に簡単に予防医療の受診と急病の受診の違いについて解説してみたいと思います。

Preventive Visit(予防医療の受診)

米国では年に1回の予防的な受診を受けることになっています。この年に1回の予防医療の受診では、医師やナースプラクティショナーが、通常の診察よりも時間をかけて、これまでの既往歴、内服歴、手術歴、家族歴などを問診し、必要な情報をカルテにアップデートしていきます。また、予防医療について時間を割いてカウンセリングを行い、その人に応じたがん検診や、その他のスクリーニング検査、ワクチンなど漏れがないかを確認し、足りていない部分については推奨します。もちろん、何か相談したい急な症状があれば、併せて相談することも可能です。自分が研修しているクリニックでは予防医療の受診には一人当たり30-45分を割くことが許されています。いわゆる子供の健診(Well child exam/care)もこの予防医療の受診に分類されることになります。

Acute visit(急病の受診)

一方で、急病の受診という分類があります。これには、例えば風邪をひいた、皮疹が出てきたなどのまさに急性の症状のための受診はもちろんのこと、高血圧、糖尿病、気管支喘息など慢性疾患のフォローアップの受診も含まれます。この急病の受診では、基本的には一つ(あるいは二つ程度)の問題しか扱いません、というか時間の関係で扱えません。自分の研修するクリニックでは、基本的に15分間で全てを完結することを求められます。あんまり多くの問題を相談される場合には、また、日を改めて予約を取り直してもらうようにお願いすることもあります。もともと問題が複雑で時間がかかることが分かっている場合には、あらかじめ30分かけて診察できるように枠を確保することも許されています。この受診では、季節性インフルエンザワクチンやCOVID19のブースターショットなどを除けば、検診やワクチンについて触れることはほとんどありません (というか時間がないので、できません)。

受診の種別がどのように影響するか?

さて、なぜこの2つの受診の分類が大切かというと、簡単にいうとこの分類が、医療費の請求に深く関わってくるからです。米国の保険は予防医療のカバーの率が非常に高いです。例えば、自分が入っている(レジンデントに供給されるスタンダードな医療保険)医療保険では、年に1回の予防医療の受診については100%がカバーされますし、Copayも発生しません。ワクチンや、予防医療に関するオーダー(性感染症テスト、がん検診)などについてもカバーされることが多いです。しかし、急性の受診の場合にはある一定のCopayを払わないといけないですし、そこでオーダーされた検査についても一定の割合で医療費を負担しなければいけません。一方で、日本から保険を持って来られた方には、これが全く持って逆になります。一般的に駐在員向けの保険やクレジットカードの付帯保険は通常予防医療の医療費をカバーしません。一方でこれらの保険は急性の症状の受診についてはほとんどの場合手厚くカバーされます。なので、自分の研修するクリニックでは、本来は予防医療の受診としてビリングすべき場合でも、何かしらの細やかな急性の症状を見つけて、急病の受診としてビリングしてしまうことも多いです。実際の医療費に大きく関わってくるので、患者からしたら死活問題なのですが、ずっと米国で働く医師にとっては、このような保険事情を理解することはなかなか難しいと思います。

予防医療の進め方にも違いが、、、

こちらに来て面白いと思ったのは、このように受診の形態が完全に分かれているため、ヘルスメンテナンスの項目を少しずつカバーしていく、というよりは予防医療の受診で来られた場合には、網羅的に全ての推奨を行うというスタイルをとることが多いように思います。日本にいた時は、ヘルスメンテナンスの項目について、自分なりに優先度をつけながら、足りない部分を毎回の外来で少しずつ埋めていくという考え方だったのですが、そもそもアメリカでは前の記事に書いたように患者はそんなに頻繁に外来に来ないので、推奨があるならいっぺんに提供してしまわないと機会を失ってしまいかねません。もし、自分がPCPであれば、フォローアップの受診を指示して小分けに推奨していくという方法もあるのですが、レジデンシーのクリニックでは、他のレジデントがPCPとして登録されている患者を診る機会も多く、そのような場合は時間が限られている急病の受診で、頑張ってヘルスメンテナンスについて推奨を行うことはなかなかできません。

以上、アメリカの医療システムの中でも日本人がなかなか感覚的に理解しづらい、Preventive Visit (予防医療の受診)とAcute Visit (急病の受診)の分類について説明してみました。この記事が少しでもみなさまのお役に立てば幸いです。

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