患者の名前と顔が一致しない問題

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米国で家庭医として働き出してから感じることの一つに患者との関係づくりの難しさがあります。もちろん、言語や文化の問題もあるとは思うのですが、それ以上に感じるのが、外来で実際に患者に会う回数の少なさです。

外来のフォロー間隔が長い

 例えば、アムロジピン5mgのみでコントロール良好の高血圧以外に特に持病のない50歳代の患者が外来に来た場合を想定してみましょう。この患者をどれくらいの頻度でクリニックの外来でフォローするでしょうか?日本では、処方が99日分が限度であり、受診なしで薬を処方することが医療制度上認められてないため、どんなに長くても3ヶ月毎のフォローになると思います。クリニックによっては収益をあげるために毎月の受診を指示するところもあるのではないでしょうか?クリニックによっては1人の患者に3-5分程度しかかけれない場所もあるでしょうが、ある程度教育にも関わっているクリニックを想定し、一人の患者に10-15分程度時間かけると仮定します。1-3ヶ月の間隔で1年間顔を合わせ続けた場合、患者の名前と顔が一致する可能性が高いのではないでしょうか?

 では米国ではどうでしょうか?米国では、このような患者の場合、おそらく1年に1回しかクリニックに受診しないケースがほとんどだと思います。高血圧の薬については90日分を処方し、Refilを3つつければ360日間はOKです。年に1回30-45分程度の予防医療の受診をしてもらい、高血圧の状況やその他の患者背景などのアップデートを行います。

名前と顔が一致しない・・・

自分は記憶力があまり良くないので、1年間に1回の受診ではなかなかその患者のことを覚えることができません。なので、自分が勤務を開始してから、1年半が経過しますが、自分がかかりつけ医、Primary Care physician (PCP)として登録されていても、未だに名前と顔が一致しない患者が多いです。この前も飛び入りで現れて、予習をする時間がなかった患者に、"Nice to meet you"とあいさつしたところ、その患者が約1年前に自分が見ていて、自分がPCPとして登録されている患者でした。患者には"You do not remember me?"と言われて非常にばつの悪い思いをしました。

引き継いだ患者について

自分が働くクリニックは研修クリニックなので、毎年レジデントが卒業するたびに新しい患者を引き継ぐことになります。自分も卒業生から引き継いで、自分がPCPとして登録されている患者をたくさん持っています。しかし、レジデントは通常週に1-2回程度しか勤務していないので、患者が必ず自分の外来を受診できるわけではありません。その場合は、他のレジデントの外来に受診することになるのですが、そのような場合は、自分が一回も会ったことのない患者に対して、PCPとして薬のRefilをしたり、場合によっては検査結果の説明をしなければいけません。日本での診療に慣れている自分にとっては、自分が一回も診ていない患者に対して、何かしらのオーダーを行うことに対して、当初は非常に抵抗がありました。

上記のような背景もあり、自分は現在米国で家庭医療のレジデントとして勤務していて、多くの患者と深い医師患者関係を築くことの難しさを感じています。医療という大きなシステムの中で、その一部であるPCPとして自分の役割を果たしているという感覚が強く、そのように働くことにも慣れてきてしまいました。レジデンシーを卒業し、フルタイムでクリニックで働くようになれば、もちろん感じ方も変わるのだと思います。

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