卒後9年目の家庭医療臨床留学で診療の幅は広がるのか?

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いよいよ新しいレジデントが入ってきて、PGY2(Post graduate yeay 2:研修医2年目)になります。先日、PGY1からPGY2に上がるための試験のようなものがあった(PGY3が新しい研修医のふりをして、それをプリセプティングする)のですが、ある程度高い評価がもらえたようでホッとしました。米国で日本で家庭医療研修を終えて、それから米国でレジデントをやり直しているということを伝えるとほとんどの人が『レジデンシーを2回やり直すなんて、よくそんなことするねー、自分ならそんなことは絶対にできない』と言われます。レジデンシーの3年間は非常に忙しい上に給料も低いです。多くのレジデントが早くレジデンシーを終えて、医師という資格に見合った生活(給料面でも労働時間面でも)を送ることを夢見ているのです。そんな中で、自分は異国でレジデンシーやり直しの1年間でどのような学びを得ているのか、特に臨床面から振り返ってみたいと思います。

ちなみに筆者が日本で家庭医療研修を行ったプログラムは比較的田舎の中核病院の総合診療部を中心としたプログラムでした。内科の知識は比較的多く吸収することができ、また、合併症や複雑は心理社会背景を持った患者を、多職種で協働しながらどのようにケアしていくか、ということについて多くの学びを得ましたが、診療所での勤務経験はありませんでした。このような病棟中心(多くは高齢者の内科愁訴中心)の研修が主になっているプログラムは多いと思います。このように少し自分の背景を説明させてもらった上で、日本での研修と現在米国で受けている家庭医療研修の違いについて感じたことを自分の視点で記載してみます。

婦人科領域について

性感染症の診療や不正性器出血などの婦人科の愁訴については多くの暴露があり、確実に知識が身につきました。特に淋菌・クラミジア・カンジダ膣炎などの性感染症を治療する機会は多いですし、細菌性膣炎もCommon diseaseです。そもそも日本にいると、都市の場合、多くの場合は患者は婦人科に受診してしまうので、家庭医療クリニックで多くの経験を積むことは難しいのではないでしょうか?また、多くの田舎のプログラムではそもそも若年女性の患者の数が少なかったり、そもそも性感染症の有病率が低く、婦人科へのアクセスが悪かったとしても、症例数が非常に少なくなるのではないかと思います。また、Pap smearについても、ある程度の数をこなし、一般的な症例(極度の肥満症例などを除く)では一人で子宮頸部の露出ができるようになりました。

産科領域について

産科の研修については、実を言うと米国で研修し、少しがっかりしました。これはプログラムによりけりだと思うのですが、自分の働く地域では、産科へのアクセスが非常に良い(家庭医療へのアクセスとほとんんど変わらない)ので、多くの患者が家庭医ではなくて産科への受診を希望すると言う現実があります。その結果産科の患者数が少なく、家庭医療科だけでは十分な患者数を確保することができないため、産科に頼んで症例を見せてもらうように自分でお願いしないといけませんでした。あくまでも見学させてもらうポジションになってしまうことが多く、時には診察の時にも声をかけてもらえなかったりと、非常に辛い思いをしました(他のレジデントも同じように辛い思いをしているようでした)。お産については約10例経験しましたが、自分一人でManagementできるレベルには全然ありません。そもそも、自分の研修しているエリアでは、産科のフェローシップを終えた医師以外はお産に関わることはほとんどありません。もちろん、正常妊娠の外来マネジメントなどはフェローシップをしていない家庭医でも関わることがあると思うのですが、1年目の間は外来の経験はほとんどありませんでした。このようにお産についてはがっかりすることも多かったのですが、一方で避妊についてのマネジメントについては多くのことを学びました。米国では避妊に関するカウンセリングが非常に重要視されます。また、日本とは異なりIUDやImplantのDeviceが保険適応になっているため、多くの選択肢がある中から、患者と議論しながらどのオプションが患者に最も合っているか議論することができます。自分は未だにいちいち資料をカンニングしながらカウンセリングしていますが、3年間が終わる頃にはもう少し習熟できるようになりたいです。

小児科領域について

小児科領域では特に新生児の診療で大きな学びがありました。2週間の新生児ローテーションでひたすら新生児を見続ける中で、新生児のCommonなプロブレム(特に体重減少、黄疸、皮疹など)を学び、両親に対しても適切なアドバイスがある程度できるようになりました。一方で、乳児以降の外来の経験については極めて暴露量が限られています。自分が研修する地域では、産科だけではなく小児科へのアクセスも非常に良いため、外来での小児診療は量が限られます。日本にいて休日急病診療所でアルバイトしていた時が人生の中で最も小児患者を診ていたような気がしています。自分は1年間で合計で25例ほどの症例暴露がありましたが、これは1年目の研修医の中では圧倒的に多いです(2-3人しか診ていない同僚もいます)。これは多くの日本人患者が自分を指名して受診してくれたからです。

精神科領域について

産科や小児科と比較すると精神科へのアクセスは悪いです。予約をするとかなりの期間待つのは日本とあまり変わらないかもしれません。なので、必然的にうつ病や不安症の診療を行う機会は多くなります。投薬の開始(ほぼ100%SSRIです)や調整を行う機会は非常に多いです。また、うつ病や不安症以外にも、個人的には成人のADHDの患者を診る機会が多くありました。ただ、これもあまり積極的に診断や治療を行うわけではなく、心理士がある程度診断を確定させた症例に、一般的な薬を用いて、効かなければ精神科に紹介、と言うある程度画一的な対応に止まりました。

オピオイド、アルコール関連について

Opioid Use Disorder、Alcohol Use Disorderの病名がついた患者をみる機会は非常に多いです。まだ自分はあまり理解できていないのですが、Opioid Use Disorderに対するSuboxone投与、Alcohol Use Disorderに対するNaloxone投与などは今後もっと勉強して能動的にアセスメントできるようになりたいと思っています。アルコールについては日本でも機会があると思いますが、特にオピオイドの問題については日本にいる限りはほとんど出会うことがない問題なのではないかと思います。

以上の5領域が自分が1年間の研修を通して、Biomedicalな知識として、多くを学んだ領域になります。もちろん、こういったBiomedicalな知識以外にも患者診療を通じて、多くの経験をしているので、これが全てと言うわけではないのですが、家庭医として患者を包括的に診る能力を身につけるという意味では、以上の領域で米国で新たな学びがあったと感じています。ただ、こういった能力を身につけたからといって日本に帰国して全てが活かせるわけではなく、やはり米国での研修は米国で働く際に最も役に立つものであると感じています。研修修了後の進路についてもそろそろ頭を悩ませないといけない時期です。

-家庭医療/総合診療, 臨床留学

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