横須賀米海軍病院(USNH Yokosuka)でのローテションやその他の学習機会

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2018年度にJapanese Fellowとして勤務した経験をもとに、2019年春にUSNH Yokosuka Japanese Fellowship Programについての記事をアップしていましたが、ブログ記事の整理のため、このタイミングで、以前の記事を複数個に分割して記載するに至りました。この記事では、Japanese Fellowが実際にどのようにローテションをして学んでいるのか、またローテーション以外にどのような学習の機会があるのか、自分の経験をもとに記載します。プログラム全体の概要については、下記の記事を参照ください。

どのような科をローテーションするのか?

自分が在籍していた2018年時には、一般内科、一般外科、産婦人科、小児科、家庭医療科のローテーションが必須でした。加えて、精神科、神経内科、皮膚科、耳鼻科、眼科、泌尿器科、整形外科、放射線科を2週間単位でローテーションすることができました。

基本的には外来の後ろに座り、指導医が実際に患者を診察するのを見ていることが多いです。一般内科や家庭医療科では、症例を決めて問診をとらせてもらったり、カルテを書いたり、場合によっては指導医の監督のもと簡単な手技(Pap smearやJoint injectionなど)をさせてもらったりすることもありました。

指導内容や質についてはその時々についた指導医によります。指導医によっては予習を要求されたり、朝の8時から夕方の4時まで付きっきりで、みっちりと教えてくれる人もいました。

どのような指導医がいるか?

USNHにいる先生の大半は米国でResidencyを終えたばかりの若い先生です。米国では、各科毎の守備範囲が事細かに決まっています。ここまではresidencyを修了していればできる、これ以上は専門のFellowshipで学ばないといけない、といったことがとても明確に決まっています。そういう意味ではResidencyを終えたばかりの先生はその科の中ではgeneralistと言えます(例えばUSNHの小児科医は自分のことを常にgeneral pediatricianと自己紹介していました)。ほとんどの先生が明るく、Japanese Fellowと積極的にコミュニケーションをとってくれ他ので、大変ありがたかったです。

どのような患者を診るのか?

患者は基本的には現役の兵士たちとその家族です。なので、比較的若く、健康な方が多いです。急性の症状は、感冒、胃腸炎、皮疹など、慢性疾患については高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症、腰痛などが圧倒的に多いです。それから、米国では年に1回かかりつけの家庭医のところで健診を行うことになっているので、年齢に応じた血液検査や癌検診の推奨など、ヘルスメンテナンスについての理解は格段に深まると思います。兵士を引退した後のご高齢患者も時々来院されますが、その場合は基礎疾患に心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病など合併症があることが多く、対応に苦慮することも多かったです。

見学型研修からの脱却は難しい・・・

ローテーション中はJapanese Fellowに医学的な判断が求められることはありません。あくまでも研修生であり、見学者という立場です。指導医が外来の一番最初に「今日はJapanese Fellowも研修でついているのだが、一緒に診療しても良いか」と聞いてくれるのですが、時々患者から拒否されることがあります。自分は家庭医なのですが、これまでPap smearやContraceptionを学んだことがなかったので、手技があれば呼んでもらうようにプロバイダーに声をかけたり、自分でカルテで患者リストを見て、手技に入れそうな患者がいれば、診察させていただけるようにお願いしていたのですが、あまりにも患者から診察立会いや手技の実施を拒否されるので途中でやめました。確かに冷静に考えれば、Pap smearやIUD挿入などの処置をよく分からない日本人の男性の医師にみられるのは嫌だと思います。また、精神科のローテーションでも非常にプライベートに関わる領域なので、苦い思いをしました。もともと午前、午後1人ずつしか予約が入っていないにも関わらず、その患者2人ともに同席を拒否され、1日何もすることがない日もありました。

自分なりに能動的に色々な経験を積もうと努力はしたつもりなのですが、見学型研修の限界を感じることは多かったです。USNH Yokosukaでの経験は、日本でしか働いたことのない医師には目新しいことばかりなので、これまでとは違うプラクティスに触れることは純粋に面白いし、様々な刺激を受けることはできますが、USNHで医学的に何かを学ぶとか、USNHで学んだ手技を日本で活かす、みたいなことは難しいように思います。

ローテーション以外の学習機会

ローテーションの他の教育の機会として、ERでの患者対応、ヌーンカンファレンスでの英語での症例発表、近隣の病院でのレクチャーイベント、近隣の病院との合同カンファレンスがあります。

ERでの患者対応

ERは24時間空いていますので、やる気があればずっとERにいて、問診をとったり、それを救急の指導医にショートプレゼンテーションしたりすることができます。このブログで公開している英語の診察フレーズ集も多くは、ERの指導医、そして看護師に質問しながら作りあげたものです。軽症の患者が多いので、症例自体がすごい勉強になるということはないのですが、逆にcommonな疾患について、時間をかけて問診をすることができるので、英語での診療の勉強という意味では最適な場所でした。OTC (Over The Counter) Drugについても知識が増えました。驚いたこととしては、外傷痛みを訴える患者(骨折など)にすぐにモルヒネを静注すること、逆流症状が疑われる患者に複数の薬が混ざったカクテルシロップを飲ませて、症状の改善の有無でGERDらしさを判断していたことでしょうか。

ヌーンカンファレンス/ランチョンレクチャー

2018年度は週に2回の頻度でランチタイムに開催され、Japanese Fellowが持ち回りで発表します。私たちの代は1人9回発表していますので、合計で45回程度の発表機会があったことになります。(本来予想される数より少ないのは、対外的な症例カンファレンスの予演会になったり、患者搬送や休暇でJapanese Fellowの数が少ない時には中止になったためです)スライドの作成の方法やプレゼンテーションの仕方など、たくさんのフィードバックがもらえて非常に勉強になりました。例えば、身体所見やROS(Review Of Systems)の書き方など教科書を見てもなかなか学習できないことがすぐに教えてもらえます。また、血液検査結果の書き方は大きく異なるのですが、徐々に慣れることができました。始めは、一つのスライドを作るのに4-5時間かかりましたが、最後の方は症例さえ決まっていれば1時間程度でサクサクと症例提示のスライドを作成できるようになりました。また、指導医からのミニレクチャーも週に1回程度の頻度でランチタイムに開催されていました。

症例発表スライドの例です。

近隣の病院でのレクチャー

海軍病院の指導医が、普段お世話になっている近隣の病院に伺い簡単なレクチャーをするというもので、Japanese Fellowも一緒に参加することができます。基本的には、その病院の初期研修医たちが参加してくれます。臨床留学や海軍病院での研修に興味がある先生はいいのでしょうが、そうでない先生にとってはDutyのような感じになっているのかもしれません。夜に行われることもあり、レクチャー中に疲れてお休みになっている先生方も少なくなかったです。

近隣の病院との症例カンファレンス

普段患者搬送でお世話になる病院と年に複数回合同でカンファレンスがあり、Japanese Fellowが持ち回りで症例発表します。これは実際にUSNHで経験した症例であることもあれば、日本の病院で勤務していた時に経験したUSNHとは全く関係がない症例であることもありました。カンファレンスの前後で一緒に立食形式で食事をしたりするので、普段お世話になっている日本人の先生方と色々とコミュニケーションをとることができてとても楽しかったです。下記の写真は実際に自分が発表しているときのものです。

まとめ

この記事では、USNH Yokosuka Japanese Fellowshipプログラムでどのような教育経験を得ることができるのか、2018年度に自分が働いた経験をもとに記載しました。この記事がプログラムにアプライを検討している若手の先生方に少しでも役立つことを祈っています。

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