横須賀米海軍病院(USNH Yokosuka)での患者搬送業務について

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2018年度にJapanese Fellowとして勤務した経験をもとに、2019年春にUSNH Yokosuka Japanese Fellowship Programについての記事をアップしていましたが、ブログ記事の整理のため、このタイミングで、以前の記事を複数個に分割して記載するに至りました。この記事では、Japanese Fellowの一番の業務である患者搬送について、自分の経験をもとに記載します。プログラム全体については、下記の記事(横須賀米海軍病院(USNH Yokosuka)の日本人インターン(Japanese Fellow)とは?)を参照ください。

患者搬送業務(トランスファー)とは?

USNH Yokosukaには一般内科、一般外科、耳鼻科、眼科、皮膚科、産婦人科、泌尿器科、精神科、神経内科などある程度の科は揃っています。検診の上下部消化管内視鏡程度であれば一般外科の先生が行いますし、胆嚢炎、ヘルニア、精巣捻転などの手術であれば、施設内で対応が可能です。しかし、カバーできない診療範囲の問題や、そもそも重症で集中治療が必要になる場合には、その患者を日本の病院に搬送する必要が生じます。

例えば心筋梗塞の患者が来た時には、USNH内には循環器内科医はおらず、冠動脈造影検査もできないので、基地の近隣にある日本の病院に治療をお願いする必要があります。その際に、USNHのProviderから英語で患者の情報を収集し、どの病院に患者を搬送するかという病院選定の判断を行い、電話で日本の病院の担当医に患者の病状を伝え、受け入れの交渉をしたり、調整を行う役割をJapanese Fellowが担っています。

日本の病院に患者を搬送した後は、主に患者への通訳業務が主になります。病態の説明、検査の同意書取得、今後の入院の見込みなど、日本人医師からの病状説明だけではなく、個室がいいか大部屋がいいか、面会時間やパジャマのレンタルのことなど事務的なことについても、患者のために適宜通訳をします。アメリカでは面会時間は普通決まっていない(24時間付き添いが可能)ので、「面会時間は14時から17時です」と患者に伝えると、お決まりのようにクレームをいただいていました。

各米軍病院での違い

このTransferの業務ですが、4つある米軍病院(横須賀海軍病院、沖縄海軍病院、横田空軍病院、三沢空軍病院)の中でも、業務量に差があります。特に沖縄海軍病院と比較した場合、横須賀海軍病院は患者搬送の数が圧倒的に多いです。この理由の一つに、横須賀米海軍病院は沖縄海軍病院と比較して病院の規模が小さいことがあげられます。例えば沖縄海軍病院には脳神経外科医がいます。NICUがあり新生児集中治療医が働いています。横須賀海軍病院にはどちらもいません。なので、横須賀海軍病院の場合34週未満のPreterm deliveryであれば原則日本の病院に搬送、ということになってしまうわけです。

日本とアメリカのスタンダードの狭間で

患者搬送で海軍病院の指導医と日本の専門医に間に入る時に、日本とアメリカでの違いを感じることもありました。自分はあまり詳しくないのですが、新生児仮死の低体温療法の適応などは大きく異なるようです。

個人的には、高血圧の患者(hypertensive crisis疑い)の症例には何度も手こずらされました。日本なら降圧薬を使いながら、様子を見るような状況でも、海軍病院の指導医から、これはICU疾患だからここではみれないと言われてしまいます。気まずい重いをしながら、「1泊2日の経過観察だけでもいいので、貴院でみていただけませんでしょうか?」と頭を下げたこともありました。結石性膵炎後の胆嚢摘出術のタイミングについても、手術を急ぐ米国外科医と、できる限り炎症が落ち着いてから手術をしたい日本の消化器内科医の間で、ギャップを感じました。

これは個人的な印象ですが、アメリカの医師はガイドラインを逸脱することは絶対にしませんでした。ある海軍病院の指導医にそのことを伝えたところ、その理由として、米国ではスタンダードから外れたことをした場合の訴訟のリスクが日本と比較して、非常に大きいからだ、と説明されてなるほどと思いました。

日本の専門医との交渉について

診療した患者の病状を迅速に把握し、適切な後方病院を選定し搬送するという業務は中小病院で総合診療医として働いていた自分には、極めて慣れている業務でした。なので、言語の壁はありましたが、業務内容自体は日本の病院で働いていた時と比べて、ほとんど変わらない、むしろほぼ一緒ではないかと思うこともありました。専門医の先生と病状を共有し、意見を聞いて適切な治療やDispositionを見極める必要があります。患者の安全が第一です。

時にはこちらの希望を通すために大げさに説明してみたりするのも日本で働いていた時と全く一緒です。診断がつかない曖昧な症状の患者で手こずるのも一緒です。「急な精巣痛で精巣捻転の診断で手術お願いします」みたいなコンサルテーションは楽チンです。ただの通訳でも全く問題ないです。でも病態が複雑な場合やそもそもの診断が曖昧な場合には、医学的に現状を正しく伝え、両側の意見をすり合わせる必要があるので、時にとてもタフな交渉が必要になります。

自分が対応したケースでは、肺炎でふらついて転倒し、中心性頸髄損傷疑いで来院されたことがあったのですが、そもそも何が起こっているかの把握が難しく、日本の病院と海軍病院の指導医の間でかなり苦労しました。こういった仕事は、ただの通訳でもできなくはないと思うのですが、やはり医師(Japanese Fellow)が対応するがスムーズだとは思いました。プライマリケアの領域には、これは正直医師じゃなくてもできるけど、やっぱり医師がやった方がスムーズだよねという仕事がたくさんあります。USNHでの仕事にも似たようなことをしばしば感じました。

業務の負担について

この患者搬送業務は活きた英語の勉強にはこれ以上ない環境なのですが、一度搬送のプロセスが始まってしまうと最低でも2-3時間は拘束されてしまうことになります(そのまま緊急の処置に入ってしまう場合は処置中もずっと付き添うことになります。)。また、夜でもお構いなしに呼ばれますので、特に家族連れで基地の外に住む方は負担に思うことも多いと思います。私は単身赴任で基地の中に住んでいましたが、夜中2時ごろにコールがあり、呼ばれてERに行ってみると「やっぱり大丈夫だったわ!」と言われたことがあり、すごくイライラしたことを覚えています。特に自分の場合は試験直前など座学に時間を取りたい時に、患者搬送業務を負担に思うことも多かったです。

まとめ

以上USNH Yokosukaでの患者搬送業務(Transfer)について実際に勤務した経験をもとに概要をまとめました。あくまでもこの記載は2018年度にJapanese Fellowとして働いた角田の個人的な意見や経験に基づいています。USNH公式の情報ではございませんし、Japanese Fellowを代表するものではありません。USNH Japanese Fellow Programに興味がある方はまずはExternshipあるいはOpen houseへの参加をしていただき、現在のFellowからお話を聞いて、考えてもらうのが良いと思います。

(2021年2月現在) 私たちの代でUSNH Japanese Fellow Programについて問題提起を行ったのですが、その後、後輩の先生方が改善のために努力をしてくれて、非常に見やすいウェブサイトが完成しています。下記もご参照いただけると、現在のUSNH Yokosukaの雰囲気が伝わるのではないかと思います。

https://yokosuka.tricare.mil/About-Us/Fellowship-Program

この記載がUSNH Japanese programに興味があるものの、Applyに一歩踏み出せない方に対して、参考になる情報となることを祈っています。

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