レター投稿:Does accessibility to emergency care services reflect quality of primary care in hospitals?

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 自分の書いたLetterがAnnals of Family Medicineに掲載されました(http://www.annfammed.org/content/18/1/24/reply#annalsfm_el_31182)。亀田の岡田先生、静岡の金子先生というBig nameの先生方に並んで、家庭医療のトップジャーナルに自分のLetterが載ったことをとても嬉しく思います。また、Letter記載のご指導頂いたSRWGPSGの担当先生に心から感謝します。Annals of Family MedicineではTrack commentsという欄があり、掲示板に投稿するような感覚で、letterを投稿することができました。

 Letterを書いた論文は京都大学の青木先生による、診療所ベースと病院ベースのPrimary care外来における患者のPatient Experienceを比較したものです(http://www.annfammed.org/content/18/1/24)。青木先生はPCATというPrimary careの評価ツールを翻訳・検証して、日本語版のJPCATを開発し、患者へのアンケートを通して、そこで提供されているPrimary careの質を評価するということをしています。具体的には以下のような項目です(https://www.primary-care-quality.com)。

①近接性(First contact accessibility)についての質問3つ(Ex: 診療時間外に体調が悪くなった場合、その医師の医療機関に電話で連絡できますか?)
②継続性(Ongoing care)の質問5つ(Ex: その医師は症状や病気を持つ患者としてだけではなく、あなたという人をよく理解していますか?)
③協調性(Coordination of services)の質問6つ(Ex: その医師または医療機関のスタッフは、専門医の予約をとる手助けをしましたか?)
④包括性(必要な時に利用できるサービス)(Comprehensiveness services available)の質問5つ(Ex: その医師を受診するときに、こころの問題に関する相談を受けられますか?)
⑤包括性(実際に受けたことがあるサービス)(Comprehensiveness services received)の質問5つ(Ex: 適切な運動に関する助言を受けたことがありますか?)
⑥地域志向性(Community orientation)の質問5つ(Ex: その医師は、よりよい医療を提供するために住民の意見や考えを聞いていますか?)
 以上の項目に5段階評価で答えてもらい、それを数値化して、比較する、ということをしています。

 今回の論文では、Small-medium sizeの病院と無床診療所での継続診療患者でのJPCATを比較しました。結果としては、First contactのDomainで、69.3 VS 56.1(P<0.001)と病院が上回りCommunity orientationのDomainでは、66.2 VS 74.1(<0.01)と無床診療所が上回る結果となりました。
 青木先生は、このFirst contactで病院が診療所を上回った理由として“One of the concerns associated with poorer patient experience of accessibility with respect to primary care in community based office practices is that the majority of Japanese offices are solo practices, wherein a single full-time physician runs the office, making it difficult to provide out-of-hours care.“と主張しています。そして、Out-of-hours care from primary care physicians ensures continuity of care and reduces costly emergency department visits.なので、There is limited ability to improve the accessibility, including out-of-hours care, of community-based offices by facility-level measures alone; however, as in the patient-centered medical home in North America, a policy incentive that encourages conversion from solo to team-based practice may be effective in this regard.と記載しています。

 ここからが自分が考えたことなのですが、、、この病院ベースの診療の方がFirst contactがよかった理由ってただ単に救急外来受診のことを言っているのではないか、ということです。近接性(First contact)の質問は

・診療時間外に体調が悪くなった場合、その医師の医療機関に電話で連絡できますか?
・休診日に体調が悪くなった場合、その医師の医療機関に、その日のうちにみてもらえますか?
・夜間診療時間外に体調がわるくなった場合、その医師の医療機関に、その夜のうちにみてもらえますか?

など、医師ではなく、医療機関のことを言っています。だから病院ベースの診療でFirst contactがいいって結局、ER受診のことを言っているだけで、その値がよかったからと言って、“Out-of-hours care from primary care physicians ensures continuity of care and reduces costly emergency department visits.“を意味しないのではないか、と思いました。

 もし病院名が分かれば自分で調べてどのような時間外診療が行われているか調べたのですが、匿名化されていました。なので、日本にある一般病院のうち、45%が24時間の救急医療や入院の必要とされる急性の患者の対応をする2次医療機関であることをデータとしてあげて、「今回Includeされた病院に救急科があるのか、どのような時間外診療がされているのかが明示されるべきである」と議論しました。そして先日返信がありました。

「今回Includeされた6つの中小病院では、時間外外来はOn callのPrimary care physicianによって運営されており、これらの外来でカバーすることで大病院のERへの受診が抑制されうる」という返信でした。

実を言うとスッキリするようで、スッキリしない部分がありました。今回Includeされた、6つの病院は公表されていませんが、その病院がある地域のみSupplementに記載されています(http://www.annfammed.org/content/suppl/2020/01/07/18.1.24.DC1/Aoki_Supp_Tables_1-2.pdf)

 ここからは、あくまで推測なのですが、この南魚沼市にある病院って、南魚沼市民病院ではないか、と思っているのです(140床)。そして、もし南魚沼市民病院であれば、時間外来について下記のような説明があります(https://www.minamiuonumahp.jp/examination/kyuukyuuzyusin/)。「救急病院(2次救急)の認定を受け、地域の医療機関(診療所・病院)と連携し役割分担を図りながら、ケガや病状が急変したり悪化した方(救急患者)を受け入れております。」「診察の結果に応じて、専門的な検査(CT・MRI等)を行います。」

 そもそも、日本ではER医が24時間当直している病院は多くはないと思います。アメリカではERは救急のトレー二ングを受けた救急医によって提供されるものということになっていると思いますが、日本では各科の先生が、日替わりで当直していることが多いはずです。何を持ってERというか、厳密な決まりはないので、はっきりPrimary care physicianによって提供される時間外診療とERをクリアカットに区別することは困難です。しかし、流石に病態に応じて緊急でMRIまで取れちゃう二次救急病院ってそれはやっぱりERではないか、と思うのです(もし南魚沼市民病院でなければ的外れな意見です)。

 日本のコンテクストにおいて病院におけるPatient ExperienceのFirst contactのドメインは異なる意味を持っていると思うし、解釈には注意が必要と思います。ただ単に病院の救急外来へのアクセスの良さを示しているだけの可能性が高いと思うからです。そして、その救急外来をPrimary care側から語っていいのか、ER側から語っていいのか、僕にはよく分かりません。診療所間でFirst contactのドメインを比較することは問題ないと思います。しかし、この診療所は病院なみのFirst contactを誇っている、といった風に使われる分にはもちろん問題ないと思います。しかし、優れたFirst contactがER受診を減らすということを意味せず、ER受診そのものとなっている場合が少なからずあると思うのです。

 そして、このブログを書きながら、自分もいつかAnnals of Family Medicineに必ず原著論文を載せてやる、と心に誓うのでした。

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